独立行政法人 国立病院機構 西別府病院

大分県別府市の国立病院 リンパ浮腫・スポーツ医学センター 医療に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

当院における睡眠時無呼吸症候群(SAS)診療の御案内

国立病院機構西別府病院 統括診療部長 杉崎勝教

◆はじめに 
先生におかれましては睡眠時無呼吸症候群(SAS)及びその関連疾患の検査、治療におきまして日頃から御理解、ご協力いただきありがとうございます。さて近年睡眠中の無呼吸に伴う様々な障害が問題になってきており、これらの問題が放置された場合極めて多くの社会的、個人的な不利益が発生することが知られてまいりました。交通関係者の居眠り事故などがその代表でありますがさらにこうした睡眠時無呼吸症候群を伴う患者様の無自覚な不眠に伴う種々社会的、臨床的な問題に対して関連学会でもようやく積極的に取り組むようになってまいりました。当院ではいびき外来を設けて従来からこの問題に取り組んでまいりました。今回は当院で新しく取り組み始めました歯科装具による治療を当院歯科部長の保科早苗先生に、心疾患などに合併するチェーンストークス型の無呼吸に有力な治療法となるASVを中心に心疾患と睡眠時無呼吸症群の関係について当院内科の緒方優子先生からご紹介させていただきます。また当院におけるPSG検査につきまして検査科の井上輝彦技師から紹介させていただきます。先生の日常診療の御参考になれば幸いです。


◆当院における歯科装具(口腔スプリント)による睡眠時無呼吸及びその関連疾患の治療について

国立病院機構西別府病院 歯科部長 保科早苗


歯科装具は、下顎が上顎より前に出るようにすることで気道を広くし、閉塞型睡眠時無呼吸を改善するもので、平成16年より保険適用となりました。当院では、写真に示す2種類タイプの歯科装具をご提供しています。


写真(上)上下一体型は、下顎を前方数㎜突き出して咬むように固定したもので、写真(下)可動式装置は、開口時に下顎が前方に誘導されます。


◇歯科装具の適応
・顎の成長を終えた18歳以上が対象で、原則として、単純ないびき、あるいは軽度から中等度の睡眠時無呼吸が適応となります。


・重症の睡眠時無呼吸でも、CPAPが受け入れられなかったり、配偶者とお休みの方で、配偶者から音のクレームがある場合のセカンドチョイスとして使用されます。


・普段CPAPを使用されている方も、CPAPの圧を軽減するための併用や、旅行、出張、夜勤等の携帯用としてのご利用いただけます。


◇歯科装具の禁忌
・大きなむし歯、歯周病で歯が動く、顎関節の痛みや障害があるなど、口腔疾患がある場合、製作できないことがあります。
・鼻の通りが悪い、咽頭肥大が著しい場合などは、使用できません。


◇治療
・口腔診査後、製作は歯型を採取します。
・約1-2週間後に試着開始し、1-4週程度(個人差による)、チェック票、いびき音と体の動きを簡単なセンサーでモニターしながら、顎の位置を決定します。
・最終的に簡易PSGで評価し、装具完成となります。
・定期検診は、1ヵ月後、3ヶ月後、半年後、1年後に適宜行ないます。


◇効果
・当科に紹介された患者様の7~8割の人に歯科装具が応用でき、歯科装具装着した7割程度が良好な改善をみました。


◇装着による副作用
・1週間程度、寝つきが悪かったり、唾液がたまったり、顎に痛みが出たり、朝食時にかみ合わせに支障が出ることがありますが、通常、徐々に落ち着いていきます。


◇費用
・AHI5.1/hr以上が保険適用で、費用は¥1.5万-程度、AHI5.1/hr未満でいびき軽減目的の場合自費製作となり、費用は¥5万-程度となります。

保科早苗先生のご紹介
先生は千葉県のご出身で平成 6年3月東京歯科大学卒業後平成16年3月同大学大学院歯学研究科スポーツ歯学専攻博士課程を修了されました。歯科一般の診療に加えスポーツ歯科を専門とされている先生です。ご趣味はスポーツ観戦とのことです。

◆心疾患と睡眠時無呼吸症候群について

国立病院機構西別府病院 内科医師 緒方優子


近年心疾患と睡眠時無呼吸症候群の関連性についての報告が多くみられ、2010年には日本循環器学会・日本呼吸器学会・日本睡眠学会などからなる合同研究班により「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン:Guidenes for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease(JCS 2010)」が発表されました。それによると図1に示すように多くの循環器疾患で睡眠時無呼吸合併頻度は高く、特に治療に抵抗性の高血圧や心不全、心房細動などではその頻度は高くなっています。

心不全患者においては多くの場合閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と中枢型睡眠時無呼吸(CSA)が混在してみられます。そしてこれらの無呼吸の中でも重症の心不全患者では中枢型無呼吸・低呼吸から過呼吸が交互に起こり徐々に呼吸が増加・減弱するチェーンストークス呼吸(図2 Cheyne-Stokes breathing syndrome)が多くみられることも特徴です。


最近の報告では中枢型無呼吸を有する患者の方が閉塞型無呼吸を有する患者よりもより重症度が高く、運動能力が著明に低下していることがわかり、チェーンストークス呼吸を合併している患者は予後不良であり生存率の低下を有意に認めることがわかりました。

心不全患者における中枢性無呼吸の原因としては循環時間の延長により換気のオーバーシュートがおこること、さらに慢性的な過換気により頸動脈小体と延髄の中枢性化学呼吸受容体における二酸化炭素に対する感受性の増大がおこり過換気と無呼吸を繰り返すということが考えられています。これらにより交感神経活性は亢進、睡眠時無呼吸による睡眠の質の低下のため迷走神経の活性の低下が起こり不整脈や心拍数の変動がおこります。血圧も交感神経活性亢進により上昇しさらに心負荷がかかるという負の連鎖が次々と引き起こされていくのです。
このため慢性心不全の患者に対し適切な薬物治療のみならず、睡眠時無呼吸に対して治療を行っていくことが患者のQOLのみならず予後も改善する可能性が高く、積極的に睡眠時無呼吸に対するスクリーニング検査を行い治療を行っていくことが必要です。
現在慢性心不全に伴う中枢型無呼吸に対する治療として心不全そのものに対する薬物療法(ACE阻害薬やβ遮断薬など)に加えASVによる無呼吸に対する治療がこうした患者の症状の改善に有用であることが明らかになりました。


□新しい陽圧換気療法 adaptive servo-ventilation:ASV

ASVの最大の特徴は“患者の呼吸パターンを学習する”という点にあります。これまでの非侵襲的陽圧換気では換気量や圧制御に重きをおかれていましたが、ASVではこれに加え患者の呼吸状態を常にモニタリングし学習していきます。その細かいモニタリングにより呼吸のどの段階にあるのか瞬時に判断し呼気/吸気のサポートをしながら自発呼吸の大きさに合わせた圧補助を行い、無呼吸のときには設定回数の強制換気を行い必要換気量も維持できるよう微調整を行ってくれます。これにより自身の呼吸の形や呼吸のタイミングを無理のない状態で同調させることが可能となり、患者自身の負荷を増すことなく安定した呼吸リズムを作り出すことができます。これまで心不全患者においてCPAPとbilevel PAPでは中枢性無呼吸・心不全症状や日中の眠気の改善は同程度という報告しかありませんでしたがASVを使用することでこれらの指標は有意に改善し、無呼吸低呼吸指数(AHI)のみならず血中脳性ナトリウム利尿ペプチ(BNP)を減少させ心不全の改善効果があることが示されています。

ASVはすでに保険適応された治療法ですが在宅にて継続するためには在宅人工呼吸療法管理料を算定する必要があり身体障害者認定などの公的補助を利用できない場合にはコスト的なことが問題となる場合もあります。しかし心不全に対する睡眠時無呼吸は非常に悪い影響を与えており、ASVを用いて治療することにより患者の日常生活の質の向上がのぞめるだけでなく病態の改善に寄与できる可能性が高く今後導入を検討する症例が多くなっていくものと思われます。
当院では循環器科 天田医師による慢性心不全患者に対する心臓リハビリテーションも行われており、内科・歯科・循環器科・検査科・看護部一体となって今後も睡眠時無呼吸に対する集学的治療を行っていきたいと考えております。

緒方優子先生のご紹介

先生は鹿児島県のご出身で平成6年に大分医科大学をご卒業後同大学第2内科に入局されその後血液内科を専攻されています。ご趣味はテニスとのことです。

◆当院における終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査の現状について

国立病院機構西別府病院 検査技師 井上輝彦


終夜睡眠PSG(ポリソムノグラフィ)検査とは一晩(終夜)連続して多数の生態信号を同時に測定、評価を行う検査のことを言います。この検査は、睡眠中気道閉塞により無呼吸(窒息状態)におちいる“睡眠時無呼吸症候群”をはじめ、ナルコレプシー等の“過眠症”、REM睡眠中に筋肉が緊張状態になる“REM睡眠行動異常症”、睡眠中四肢(手・脚)がピクピク緊張する“周期性四肢運動障害”、などの睡眠障害の診断・治療効果判定の為に幅広く実施されている検査です。この検査では就寝前に全身に約20箇所のセンサー(ケーブル)を装着させて頂きます(専門の検査技師が行います)。センサーは、頭に脳波を診るためのセンサーを4箇所程度、顔に目の動きを診るセンサーを2箇所程度、顎に筋電図センサーを2箇所程度、胸・腹それぞれに呼吸状態をモニターする為のベルト、指には体内の酸素状態をモニターするセンサー、その他心電図、脚の筋電図等(図1.参照)を装着いたします。これらのセンサーにより睡眠の深さ・時間、無呼吸・低呼吸の有無と重症度、睡眠障害の有無などが分かります。また昨年12月よりビデオカメラとマイクを取り付けて、ファイリングされたデータの記録条件を変更して再生したり、波形記録とビデオ画像を同期するなどの新しい機能が追加されました。(図2.)

図2. 解析画像とビデオモニター画像

図2. 解析画像とビデオモニター画像

◆おわりに

ここ2年間のPSG件数を半年ごとの件数として図1に示しました。件数の少ない月もありますが、最近は検査件数も増加しており毎月3-4件の検査を行っています。これらの検査を受けた患者様のうち7割程度の方がCPAPまたは歯科装具による治療が導入され、当院または紹介元の医療機関で治療を継続されています。現在当院では約80名の患者様がCPAP治療を継続されています。歯科装具による治療は冒頭の保科先生のお話にもありましたように、最近導入され始めた約10名程度の患者様が治療を受けておられます。CPAP治療による改善率は図2に示したように大変素晴らしいものですが、黄色い矢印の患者様だけは改善が悪く、詳しい解析の結果チェーンストークスタイプの無呼吸として緒方先生によるご紹介にありましたASVによる治療を導入し改善いたしました。

図1.最近2年間のPSG検査件数の推移

図1.最近2年間のPSG検査件数の推移

図2 CPAP治療による無呼吸指数の減少効果

図2 CPAP治療による無呼吸指数の減少効果


◆PSG検査及び歯科装具作成の依頼について
PSG検査の依頼につきましては基本的に簡易型PSG検査で睡眠時無呼吸症候群があることが確認されている患者様を対象としていますが臨床的に睡眠時無呼吸症候群が強く疑われる場合は直接いびき外来を受診していただければその場で検査の受付をいたします。また直接受診できない場合は当院内科外来にお電話いただき、当院の検査予約状況を確認して早急にお返事を差し上げます。詳しくは当院内科外来にお尋ねください。

◆歯科装具の作成依頼について。
歯科装具の作成の場合は基本的にいびき外来をまず受診していただきその後歯科の方へご紹介するという形となりますので歯科装具作成をご希望の患者様はまずいびき外来を受診していただきますようお願いいたします。詳しくは当院内科外来にお尋ねください。


国立病院機構西別府病院
〒874-0840 大分県別府市大字鶴見4548
【TEL】0977-24-1221 【FAX】0977-26-1163


おおいた睡眠呼吸センター 杉崎勝教
E-mail ksugi@nishibeppu-hp.hosp.go.jp

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